自然や美術作品の形態美を規定している各種の比例の中で、古来もっとも理想的とされ、その意味で特に黄金の名を冠されてきた比例法である。
黄金分割という呼称は、英語のゴールデンセクション、フランス語のセクションドール、ドイツ語のゴールデンシュニットの日本語訳。
与えられた量をこの比率で割りつける方法という意味で分割という語を用いている。これは、もともとユーグリッドの幾何学書からでた命題のひとつ。
黄金分割、ないしその配分による量の比率を黄金比、あるいは黄金率と呼ぶ。
黄金比の起源は、遠くエジプトの古王国時代あるいはもっと古くさかのぼりうるが考古学者や、美学者達の間で学術的に重視されるようになったのは、とくに古代文化への思慕が高まり、その研究が盛んになった文芸復興以来の現象で、黄金の名を冠するようになったのは、近世にはいってから。
中世時代には、この比例は極度に神秘化される。
神意によって授けられた秘法であるとして神授比例法Divina Proportionと呼ばれていた。
ものの大きさや長さについて、それのもつ量と量の関係をさす言葉で、調和の根本となる釣り合いのこと。
(例)ある量が他の量に対して一定の比率をもつ時私達は、そこに美を感じる。
そして、それを釣り合いがとれているとか、均斉が保たれているという。
この均斉すなわちシンメトリーという言葉は同形あるいは同量のものが、一対となって相対する形だとされている。
今日では、もっと広範な解釈に立って、調和とは部分が全体に及ぼす合法的関係だとされるようになった。
合法的関係・・・ひとつの事物に織り込まれた種々の要素つまり、全体が抱きかかえている部分が、全体に対し個々に均斉を保ち、結果として快感を感じさせる状態を言う。
これは、任意に集まった偶然的集合物ではなく、条理にあった法則が見出され秩序整然とした関係におかれていてそれは数字で代表できるような、明白な関係。
たとえば、ここに異なる2つの量があるとしたら、ある共通の単位が存在し、それにより両者は数理的に同質のものとされ、コンメンスュラーブル(数宜的関係 = ひとつの単位で双方を測りうる関係)に、置かれていて、その比が比較的簡単な比率をなす時、それを均斉を保つという。
ピタゴラスは、「自然現象には、合理的配列と連鎖と法則がありその関係は量または数で表示することができる」と、していた。
これが、調和の基本でなければならない。
シンメトリア(均斉)、ギリシア語のシンメトロス。
神殿の意匠はシンメトリアによって確立されているから、建築家はこのシンメトリアの理論を深く体得する必要がある。ギリシア人が、アナロジと呼んでいる比例から得られる。
比例とはあらゆる建築物に於いて、その肢体の部分や全体の寸法が基本尺に適うことで、これからシンメトリアの理論がでてくる。
建築に関する最古の文献「建築十書」に、(ローマ皇帝に仕えていた建築家のヴィトルヴィウス著わした書)比例について詳しく述べられている。
「形のいい人体に似せて肢体を正確に割りつけることで、それを除外ししては、殿堂のいかなる意匠方法もありえない。」
「身長を基本とすれば顔面の長さはその1/10
掌の長さも同様、足蹠は1/6、胸の幅及び腕の長さは1/4
神殿の肢体も全体の総計に対してひとつひとつの部分がもっともよく見合った数適照応を持たなければならぬ。」と断じている。
イオニア人が、アポロの神殿を建てた時、比例法がまだ、存在していなかったので、荷重にも耐え外観美も得られる方法として、男性の足蹠を測り、その比率を高さにする方法を考えた。
ヴィトルヴィウスは、こう、人体の比例発生のいきさつを述べている。
その後の実測や研究によってギリシャ時代には、遥かに高度の比例法が存在していて、今日では学術的裏付けの足らない一個の伝説となっている。